13th Annual International T3 Conference
参加報告(2001.3.16-19)

    

                                     平成13年4月11日

                                          

13th Annual International T^3 Conference in Columbus に参加して

                                 梅野善雄(一関高専)
                                 坪川武裕(福井高専)
                                 長水壽寛(福井高専)
                                        (50音順)

 

1

はじめに

 今年の3月16日から3月18日にかけて行われた、第13回T^3国際大会(コロンバス)に参加してきましたので、その概要について報告します。
日本からは、我々を含めて7名が参加しました。

                  

海外からの参加者

 海外からの参加者は69名。国別では、一番多いのは中国の15名で、次が日本の7名でした。参加者数では日本は多い方ですが、その内訳は個人での参加が主です。
中国は、文部省や北京市教育委員会の上層部の参加が主であり、国をあげて取り組もうとしていることが伺われました。
他の海外からの参加は、以下のとおりです。

韓国(5)、 シンガポール(3)、オーストラリア(2)、オーストリア(1)、 ベルギー(1)、 チェコ(1)、 デンマーク(2)、 イギリス(7)、 フィンランド(1)、 フランス(4)、 ドイツ(1)、

 アイルランド(1)、イスラエル(1)、 イタリア(2)、 ポーランド(1)、 ポルトガル(1)、 スコットランド(2)、スウェーデン(1)、スイス(2)、 トルコ(1)、 チリ(1)、 オランダ(1)、 メキシコ(3)、 プエルトリコ(1)

             

3

米国の参加者

 米国の国内参加者は、ほとんどが自費参加であるとのことです。米国では教師は教科指導に専念すればよく、事務的なことにタッチする必要はないようです。その分指導の専門性が求められ、常に自己研磨することが必要とのことです。

             

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発表総数

 全部の発表総数は471件。機種別では、全体の7割が数式処理機能を持たないグラフ電卓TI-83に関する発表であり、数式処理電卓に関するものは2割程度でした。43の部屋に分かれての同時進行なので、どの発表を聞くかを決めるだけで一苦労でした。宿泊したホテル HYATT COLUMBUS 内の会議室と、そのホテルに隣接する会議場の2手に分かれて発表が行われました。

             

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日程

 

  3月16日(金) 3月17日(土) 3月18日(日)
  8:00〜9:30 記念講演 第1セッション 第1セッション
 9:45〜11:15 第1セッション 第2セッション 第2セッション
11:30〜12:15 第2セッション 第3セッション  
12:30〜1:15 第3セッション 第4セッション  
 1:30〜3:00 第4セッション 第5セッション  
 3:15〜4:45 第5セッション 第6セッション  

 記念講演は、元宇宙飛行士で地元出身の John Glenn 上院議員によるものです。詳細は聞き取れませんでしたが、アメリカは若者をしっかり教育するのだということを熱っぽく語っていました。会場は1500から2000名程度でしょうか。椅子が足りずに立ち見がでるような熱気でした。

 http://www.t3ww.org/t3/t3speaker01.htm 

               

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発表の内容

 発表内容は、大きく分けると、次のように分けられるように思いました。
      (1) 初心者に対する講習としてのもの、
      (2) さらに進んだ使い方に関する講習としてのもの、
      (3) 新機能に関する講習としてのもの、
      (4) グラフ電卓を授業でどのように利用したかの紹介、
      (5) 数学の特定の話題の中での利用法の紹介

 清風高校で行われているような探究課題や、生徒の反応などに関するものよりどちらかというと教師側の使い方に関する話題が多かったように思います。特に、デモとワークショップの違いや、初心者向けのセッションの丁寧さなど、参加してみてその多様さに驚きました。教師の技術力向上を実際に進めていく会議のように思います。
 電卓の種類は、TI-15, TI-72, TI-83, TI-86, TI-89, TI-92。特定の機種を対象とする発表もあれば、複数機種を対象とする発表、あるいはCBL/CBRを併用する発表など、様々でした。

               

7

発表者や聴講者の様子

 発表中でも、何か分からないことがあると即座に質問が出されました。また、発表者の呼掛けに呼応して、聴講側が学生のように声を出してうなずくなど、発表者と聴講者との間では極めて活発な応答が行われていました。

 聴講者の年齢も、若年層から老年層まで幅広く、頭の薄いかなりの年配の先生方や、恰幅ある中年女性がグラフ電卓をあやつっているのを見ると、何か、感動するような、あるいは空恐ろしさを覚えるような複雑な気持でした。

 あるセッションではTI-83を使ったものでした、隣りの中年のおばさんが予備のTI-83をバックから取り出して貸してくれました。中年女性はかなりの多人数であり、そのことだけからも、普及の度合が押し図られました。

             

8

幾つかの感想

 どのセッションも、アメリカの方の講演はとても速くて概念説明やジョークはなかなか理解できませんでした。しかし、数式や電卓の画面が出てくると内容は分かりました。数式は、最もインターナショナルな言語だなあと改めて感じた次第です。この1年間TI-89を使った授業をしてきて、操作などについてはかなり「ああ、あの機能だな」と思える部分が多かったのは事実です。

 全般的にはTI-83やTI-73を用いたセッションが多く、我々もTI-83を持って使った方がよいように思いました。特に、TI-83PlusはAPPSが充実しています。統計のシミュレーションの話のセッションでは感動してしまいました。

                 

9

幾つかの新機能

 新機能としては、数学に関する探究結果をレポートにまとめるためのWindows上のソフトTI-Interactive! や、TI-89/92上で、方程式の解法過程を細かく表示できるソフトSymbolic Math Guide(SMG)の紹介が頻繁に行われていました。このソフト(SMG)は最近、フリーで公開されました。
        

 このソフトを組み込むと、いろいろな方程式に対して、どのような変形を行うかその結果にどのような変形を行って式を簡単にするかを、いちいち自分で指示しながら解を求めることができます。

 TI-Interactive! は、グラフ電卓の Windows上のエミュレーターのような機能があり、その中ではある程度の数式処理が可能です。これを利用すると、学生は自分の行った数学的な試行錯誤について、簡単にレポートにまとめることが可能になります。ただし、日本版は、いつ出るかは不明です。国を上げてとりくんでいる中国語版の方が優先されると思われます。

 今後は、TI-83Plus、CBL2、そしてTI-Interactive! の組合わせが主流となるように思われました。

           

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学校訪問

 4日目の3月19日は、学校訪問でした。参加者は海外からの参加者が主で、映画などでよく見かける「黄色のスクールバス」2台で2つの学校を回りました。 

       

A

St. Francis DeSales High School

 午前中はSt.Francis DeSales High Schoolを訪問しました。カソリック系の高校です。制服を着用していました。郊外にあることもあり、自分で運転して、車で通学している生徒が多いようです。男女共学です。女子生徒は、日本と同じようなミニスカートに生足+ハイソックスでした。カソリック系ということもあり、朝のお祈りと授業開始時の短いお祈りが特徴的でした。しかし、カソリックでない生徒にそれを強制するわけではないようです。

 5〜6人のグループに分かれて50分の授業を3コマ、最初から最後まで見学させていただきました。我々の見学したクラスは、「数学」「物理」「数学」でした。各グループには案内役の女子生徒がつきました。堂々たる体格と態度で、あたかも回りを睥睨するような雰囲気がありました。

 なお、この高校のHPでは、さっそく我々の写真が公開されています

               

(1)

1時間目

 1限目の数学は双曲線の概形・漸近線・焦点などをテーマにした授業でした。25人程度のクラスで、とても早口で話している先生にときおり黙って手を挙げて質問する生徒が実に印象的でした。生徒は、本当によく集中していました。先生が黒板に向って書いているときに手を挙げていた生徒は、先生が生徒の側に向いく態勢になったときに、もう一度手を挙げて質問していました。日本だと、あきらめて、もう一度手を上げることはないかもしれません。


 各教室にはOHPの投影機が備えつけられてあり、どのOHPにも View Screen が置いてありました。グラフの概形の確認に、TI-83でしょうか、先生がOHPで生徒に見せていました。中には、先生の言うような表示が自分のグラフ電卓に表示されないので、あきらめてブロック崩しのゲームを始めた生徒がいました。


 教師が縦板に水で講義を進めていく印象でしたが、生徒の数が少いこともあり、全員の集中度は高かったといえます。頻繁に生徒に答えさせながら授業が進められました。


 米国のぶ厚い教科書を各自が教室に持参していました。廊下には生徒個々のロッカーがありました。日本のような特定のクラスの教室というものは存在せず、時限が変わるたびに、その授業を担当する先生の教室に移動するという形式のようです。


 先生のテンションが高く、普段もこの調子だとすごいと思いましたが、それは、海外からの参加者に授業を見られているからだったかもしれません。

      

(2)

2時間目

 2限目と3限目は、連携した授業でした。
2限目のValerieさん(女性)の物理では、ふりこの運動をTI-83(TI-73?)に取り込み、その運動自体についての考察をおこなっていました。幾つかのグループに分かれて振り子のデータをCBLでとり、きれいな余弦曲線が得られました。


 データを取るに先立ち、どのようなグラフになるかを生徒に予想させていました。ノコギリ波のようなギザギザのグラフを予想する生徒が多かったように思います。


 グループに分かれた後は、生徒はそれぞれ自主的に機器の用意や準備をして実験をしていました。機器類の取扱いに関する説明はなかったように思います。先生は、望ましいデータが得られたグループには Great!、Wonderful! など叫びながら各グループをまわっていました。

 この先生は、全米のこのような教育関係の賞をもらった方のようで、その先生の教室の前には、賞状が写真入りで掲げられていました。

      

(3)

3時間目

 3限目のKarenさんの数学では、さきほど得られたデータを三角関数で近似することを行い、速度と微分などについて学んでいました。

 この2人の先生による、2つの時間の連携はすごいことです。いずれも、ふりこの運動を予測するグラフを先にノートに書かせたり、速度の予想をグラフにさせたりしていました。ただ、最後の方では加速度にまで話が及びましたが、ちょっと詰め込みすぎではないかという印象も持ちました。海外参加者の前で、多少の気負いがあったのかもしれません。

 この高校では、教室や廊下の壁に写真などいろんなものを貼ってあり、「私たちの学校、みんなの学校」という雰囲気が出ていました。教室の中もその延長で、「数学の教室」「物理の教室」の雰囲気がありました。1時間目の教室は数学の教室なので、数学に関する、いろいろなポスターが貼ってありました。極座標を利用したグラフを描かせて、それに色を塗った生徒の作品も掲示されていました。

 この高校は、オハイオ州でも有数のすごい高校だそうです。入学試験はないようです。ラザーニャをメインにした昼食を図書室でいただきました。日本からの留学生(女子)も同席してくれました。この生徒は、グラフ電卓は学校から有料で借りているとのことです。個人購入させる場合の価格の問題は、この有料貸し出しでクリアすることが可能かもしれないと思いました。ただ、公立の学校としては、いろいろ法的な問題があるのかもしれません。

              

B

Westgate Alternative School

 午後は、2つ目の学校を見学しました。Westgate Alternative School という小学校です.1年生の授業と5年生の授業を見せていただきました。児童数が20数名にもかかわらず、どの教室でもティームティーチングで2名の先生がついていました。
教育には人手も時間も手間も、そしてお金もかかるのが当たり前で、それをけちっている日本はいったいどうなるのかと思います。

 小学校の1年の授業でグラフの話をしているのには驚きました。x軸、y軸まで出して説明していました。1週間の温度変化をグラフに描かせようとしていましたが、残念ながら、ちゃんとやれた生徒は見た範囲ではいなかったようです。
しかし、これだけ小さいときから「グラフ」に慣れさせた場合の効果は計りしれないだろうと思いました。

 四則演算のできる電卓を使用して、生徒2人でペアになり、一方が言った数の並びを相手が電卓に打ち込むということをさせていました。単に、数に慣れさせようとするための使い方と思われます。

 ただ、すべての教員が、このような授業を行っているわけではないようです。保護者の側からの危惧もあるようで、途中の学年で、通常計算がキチンとできることを確かめるベンチマークテストがあるとのことでした。

 5年生の授業では、いろいろな丸い物体の円周と直径とを測定させ、それらの比を電卓で計算させて円周率を分からせようとしていました。3.14という数値は、もっと大きな円で測定しないと、なかなか得られないようです。

            

11

全般的な感想

 400以上もある発表のうち、我々が聴講できたものは1割にも満ちません。発表はTI-83関係のものが多かったのですが、TI-89関係のセッションもこれから大きく発展していくように思います。TI-89の初心者向きの講習は会場が一杯になるほどでした。数式処理機能の利用は、私たちも含めて実践的な研究が求められているようです。その点で、福井高専で行っているような実践例や、mathnaviメーリングリスト(mathnavi@ishikawa-nct.ac.jp)で交換されているような使用例は大切だと思います。

 また、我々の聞いた発表内容からみる限り、日本における数式処理電卓に関する実践は、米国でも相当に高いレベルの実践であるように感じられました。特に、清風高校で行われているような実践に関する発表はあまり見かけず、我々は、今のままの路線で進むことに対して強い自信を持ってよいように思います。

 一方、TI-73やTI-83を用いた実データを用いた数理教育は、かなり成熟してきているように感じます。金沢高専での「数物ハンズオン」に見られる先進的な例を、米国の教員はたくさん蓄積しているようです。私たちが学ぶべきことはたくさんあるようです。日本での情報交換・先進的な例の検索の場所を、これから精力的に進めていくことの大切さを感じます。

 老いも若きも、性別に関係なく、参加者のものすごい熱気は、十分すぎるほど感じてきました。日本で、数学教育に関してこれだけの熱気が湧き起こることがあるのだろうかと思うと、何か暗澹たる思いにならざるをえません・・・。

                                                  以上

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